私が選んだ職場【有限会社ワカサ】
2020年12月21日公開
故郷のアメリカから遠く離れた旭川でデザイナーとして木製家具に携わる宮川さん。大学時代に決意した「家具をデザインする」という目標に向けて、家電、鉄工、木工など、さまざまな分野に挑み経験を積んできました。
地元シカゴを離れ旭川へ。向上心でたどり着いた家具デザイナーへの道。
製造管理部 企画・開発・国際事業/宮川福之さん(30歳)
アメリカ合衆国シカゴ出身。2019年10月入社。同社初の家具デザイナーとなる。
家具をデザインするために、あえて異なるジャンルを経験。
大学へ進学し、製品の形を設計する「プロダクトデザイン」を学んだ宮川さん。芸術的でもありながら人びとの生活に寄り添う家具に引かれ、いつか家具をデザインしたいと思うようになりました。
勉強は順調でしたが、卒業を前に一度進路で悩んだと言います。「シカゴには電器製品やテクノロジーなどの分野で有名な企業がたくさんあります。プロダクトデザイナーとしていろいろな選択ができる中で、家具に限定すべきなのだろうかと考えたんです」。そこで宮川さんは他の製品から家具デザインにも通じる経験を積もうと決意します。
大学を卒業後、インターンシップを利用して大手家電メーカーで3カ月、製品コンセプトやデザインを専門で手掛ける小さな会社で半年ほど就労。「家電メーカーでは冷蔵庫のドアやヒーターをデザインしたりしました。次の会社では逆開きの傘を提案したのですが、結局採用には至りませんでしたね」。
ステップアップを重ね、成長する充実の日々。
その後、大学時代に可愛がってくれた教授の紹介で念願の家具メーカーで働くことになりました。そこは鉄工所でもあり、高級家具も作っている会社。この時は、勉強になることが多かったと言います。「例えば、ニューヨークやパリの展示会でブースの設置やデザインを手伝わせてもらいましたし、溶かしたはんだをスチールの上に乗せて、ぬれたような質感を持たせる実験的なデザインを行ったりもしましたね」。自社の製品を大きな展示会で発表したいと奮闘する先輩たちに影響を受け、充実した3年間を過ごしました。
鉄工の知識を身に付けた宮川さんは、次に小さな木工会社に転職します。そこでは木製家具の設計やデザインを行い、個人住宅の階段やキッチンを手掛けるなど、順調にスキルを積み上げていきましたが、入社からわずか1年半後、資金難により会社を解雇されることに。しかし、当時ルームメイトと共に陶器のアクセサリーブランドを立ち上げていたため、むしろ自分の作業に専念できると前向きに捉え、しばらくはこの仕事を続けていました。
それから半年ほど経ったころ、旅行で日本に来た宮川さんは、勉強のため旭川家具を見ようと旭川デザインセンターを訪れます。「奇麗で迫力があると目に留まった椅子が、当社で製作したものだったんです」。運命の糸に導かれるように、宮川さんはすぐに工場見学を依頼。社長と話す中で「ここで働きたい」との思いが高まり、直談判の末、同社への就職を勝ち取ります。
海を渡り旭川へ。見えてきた次なる目標。
同社初のデザイナーとして採用された宮川さん。彼が加わることで社内にはさまざまな変化が起こります。製造だけの下請けではなくデザインの段階から受注できるようになり、会社としてできることが広がりました。「テーブルをデザインする案件で2枚の天板と樹脂で川のように見えるデザインを提案したところ、未経験ながらも挑戦してみることになりました」。その結果、かっこよくて迫力のある仕上がりに。かつて実験的なデザインを行った時のようなチャレンジ精神が依頼の成功につながったと宮川さんは話します。
変化はこれだけではありません。同社では新たに鉄工を扱う工程に向けた準備が始まりました。「鉄工所で培った知識を生かして、加工や塗装、今の設備でできることなど、さまざまなアドバイスをしていきたいと思っています」。宮川さんは今や会社に欠かせない存在となっているようです。
入社から1年が経ち、心境にも変化が表れました。「日々の仕事に慣れて時間に余裕ができると、『シカゴから日本に来て家具を作るだけでいいのか』と考えるようになったんです。これからは人とのつながりをもっと大切にしたいので、ワークショップや企画を立ち上げるのもいいですね。かかわってくれた人たちが喜んでくれることをやってみようと思っています」。美しい家具を作る以上の達成感を、宮川さんはここでの出会いに見いだしていました。
デザインセンターで見つけた、入社のきっかけとなった椅子
製作中のキッチン家具について仕上がりを確認
カラーサンプルを基に色の組み合わせを確認する
大切にしているのは、技術より人間性です。
当社では、技術は時間をかければ経験と共に成長するものと考えており、採用時には技術や経験よりも、あいさつや常識、意欲といった人間性の部分を重視しています。そのため異業種から転職した方も多く、中には元医師という経歴の社員もいるんですよ。ものづくりや当社に興味を持ったらどんどんチャレンジしてみてほしいですね。
製造管理部部長/大柿剛士さん
有限会社ワカサ
1989年設立。特注家具や店舗什器、ホテル用の家具などを製作。大小多数の機械を備えた工場では、家庭用家具から20メートルを超える大型什器まで作ることができる。特殊機械を活用した成形合板の加工や型の製作も行う。
旭川市永山町11丁目194-2
TEL.0166-47-6933
http://www.yu-wakasa.com/