音響エンジニアとバーテンダー、一人二役で町の音楽シーンを支える【多目的スペース 函館あうん堂】
2024年1月29日公開
上京して就職したものの、人混みが苦手で数年で地元へUターンした笹井さん。得意な音楽のスキルを生かせる職場に転職し、その後かつてアルバイトをしていたライブハウスの店長を務めることになりました。
店長/笹井完一さん(55歳)
函館市出身。中学時代から友人とバンドを組みボーカルを担当。就職で上京する前に7年、Uターンで帰郷した際に3年間函館あうん堂でスタッフとして働く。函館港イルミナシオン映画祭事務局長。
青春時代を過ごしたライブハウスの店長に
30代、40代の約20年間、イベントホールの音響係として勤務していた笹井さんは5年前、函館の老舗ライブハウス「函館あうん堂」の店長として働かないかと声を掛けられました。「実は過去に2度、働いたことのある職場だったんです。10代と20代の多くの時間を過ごした思い出深い店で、この場所に育てられたという感謝の思いと、50歳になる節目のタイミングも考えて引き受けることにしました」。
初めてあうん堂で働いたのは、バンド活動をしていた学生時代のこと。ライブやイベントの裏方と、併設されたバーでバーテンダーとして働いていました。「お客様の多くが年上でしたので、言葉遣いなど振る舞い方には苦労しましたね。基本的には敬語を使いますが、かしこまり過ぎず、かといってカジュアル過ぎるのもNG。柔らかい口調を心掛けていました」。
もともと性格的に前に出るタイプではなかったこともあり、バーでは常に受け身の接客で対応。一方、ライブの時にはオーナーから「先輩後輩にかかわらずしっかりと仕切って統率しなさい」と言われ、業務によって振る舞い方を使い分けていたそうです。
お客様をよく見て希望するサービスを提供
また、バーでの接客では、お客様との程よい距離感をつかむのに苦労したと笹井さんは言います。「お客様と仲良くなっても、これ以上踏み込んではいけないラインがあることが働いてみて初めて分かりました。どこまでならOKという明確な線引きがないので、経験を積むことで覚えていくしかありませんでしたね」。
そんな新人時代、オーナーからたびたび言われた言葉が「とにかくお客様を見ろ」という一言だったそうです。「何か欲しがってるそぶりの方や、帰りたそうにしている人、少しもめているグループなど、店内全体に視野を広げてお客様の動きを見なさいと教わりました」。アドバイスの実践を心掛けることで、誰かと話をしている時でも周囲に気を配れるようになり、複数のお客様の相手が可能になっていきました。
自分の仕事に専念して身内ノリを回避する
もう一つのメイン業務であるライブの裏方作業は、店長になった現在も笹井さんがメインで担当します。出演交渉や演奏者との打ち合わせ、会場のセッティングを行い、ライブ当日には音響担当としてミキサーや照明を操作してイベントを支えます。「曲順や音の質など、確認すべきところはしっかりチェックして本番に臨みますが、身内ノリになるのを避けるため、私から盛り上げを先導することはしません。あくまでも傍観に徹し、自分の仕事に専念します」。
自らの原点とも言える店で20年ぶりに働き始めて丸5年、新型コロナの自粛も解けて繁華街への客足は戻りつつあると言われるものの、コンサートなどイベント系へ人の動きはまだまだ鈍いと話す笹井さん。「コロナ禍の間に、演奏を映像で見ることに慣れてしまったのでしょう。会場でしか感じることのできない生演奏の魅力をどのように伝え、多くの人に足を運んでもらうか。それを考えるのが店長である私に与えられた課題ですね」。スクリーンのライブ映像を眺めながら答える彼の表情は、自信に満ちていました。
オーダーされたコーヒーをいれる
物販コーナーの商品をディスプレー
ステージの位置に合わせてアンプの場所をレイアウト
ライブで使うマイクをセッティング
演奏者の持ち味を生かしながらミキサーで音を調整
お客様への対応に差を付けない
ライブの時にはバーの周辺に常連客や出演者の友人などの関係者がたまる傾向があります。顔見知りのスタッフに話し掛けてくる人も多く、初めて会場に来る一般の方にとっては入りづらい雰囲気になりがちです。居心地の悪い場所という印象を残さないためにも、誰に対しても同じ水準で接客するようにスタッフには伝えています。
多目的スペース 函館あうん堂
1960年から2軒のジャズ喫茶時代を経て、1983年5月に「多目的スペースあうん堂」としてオープン。アマチュアバンドの聖地としてはもちろん、美術展、演劇、上映会など函館のアートシーンを支えてきた。
北海道函館市松風町8-6 2F
TEL.0138-22-6360
https://aundo-hall.jp/