私が選んだ職場【ホテル函館 ひろめ荘】
2020年12月7日公開
自分で働いて得たお金で、好きなものを買う。子どものころ、家業のお手伝いでもらった「お駄賃」で、働くことの楽しさを知ったという。結婚、出産、子育てを経て、5年ぶりに選んだ仕事は地元ホテルのフロント係。常連さんにユキちゃんと慕われながら活躍中です。
二度目の職場は慣れ親しんだ温泉宿。お客様と接する中で見つけた新たな喜びと目標。
フロント/大槌幸子さん(36歳)
生まれ育った南茅部町(現函館市)が大好きな、ひろめ荘のムードメーカー。
唯一望んだ進路は地元に戻って働くこと。
フロントスタッフとして働き始めたのは11年前。3兄弟の末のお子さんが保育園に入ったタイミングで子育ての時間に少し余裕ができ、学費などこれからいろいろとお金が掛かるだろうと思ったのがきっかけでした。子どものころから度々利用していたひろめ荘に日帰り入浴で来館した時、スタッフ募集の張り紙が目に止まり、自宅から車で15分も掛からず、けがや発熱など子どもたちに何かあってもすぐに保育園に迎えに行けるという好条件も重なって、求人への応募を即決します。
実は、高校卒業後に2年間勤めたのも、自宅からほど近い地元の漁業協同組合でした。祖父の代から続く昆布漁師の家庭に育ち、代々組合員として関わってきたという縁もありましたが、通勤が楽である点が入社を決意する大きな要素だったようです。「業務の内容よりも、勤務する場所のほうが優先順位は上でしたね」。実家から離れて高校時代の3年間を下宿生活していた大槌さんに進学する考えは全くなく、選択肢としてあったのは地元で働きたいということだけでした。
そんな就労への強い思いは、子どものころの経験が強く影響していると言います。生まれ育った地域では、昆布漁の最盛期になると子どもも一緒になって手伝うのが昔からの習慣。「漁師の家の子でなくても手伝うのが当たり前で、お駄賃としてもらうお金で好きなものを買うのが楽しみでしたね」。作業は大変でしたが、対価を得ることの喜びは幼い時から体験済み。その感覚を再び味わいたいという思いもあり、ひろめ荘で働くことを決めました。
先輩の仕事姿を参考に自分のスタイルを作る。
担当業務はフロントでお客様を迎えること。接客に苦手意識はないものの、ホテルのセールスポイントである「我が家に帰ってきたような気分になる場所」としてくつろいでもらうためにはどうすればいいのか。先輩スタッフに教わりながら、新しい職場での生活が始まりました。
「家庭的な雰囲気を作るためには、お客様と従業員という関係を越えない範囲でフレンドリーに接客するのが理想です。初めのころはさじ加減が難しく、なれなれしいと感じたお客様もいたかもしれません。まずは丁寧に接客することを心掛け、この方はもうちょっと踏み込んでも大丈夫そうだなと、感覚で覚えていきましたね」。お客様の表情の変化をよく見て、お年寄の方であれば柔らかい口調を意識したり、フロントのカウンターから出てお客様の目線の高さでご案内するなど、先輩から学んだことを今でも実践しているそうです。
心に届く接客を模索し言われる前に動く。
働き始めて丸11年、今では一人で業務を切り盛りできるようになりましたが、フロントの仕事はまだまだ奥が深いと言います。「お客様が来たら館内の説明をして、チェックアウトで料金を受け取り、ありがとうございましたと送り出す。それだけで済む仕事ですけど、それで終わりにはしたくないんです」。市内に素晴らしいホテルがたくさんある中から選んでいただいた以上は、何か一つでも来て良かったと心に残るサービスを提供し、二度、三度と利用していただくためにも、もっと何かできないかと常に考えていると言います。そんな彼女が実践しているのが、お客様にアクションを起こされる前に動くこと。「例えば、チェックインの際にお客様の体格を見て、お部屋の浴衣のサイズが合わないと思えばその場で的確なものをお渡しします。他にも、予約を受ける時に食べ物で苦手なものがないかお尋ねするなど、前もって行うことでお客様の手を煩わせず、より快適に過ごしていただけます」。
気が付けば、お給料をいただく喜び以上に、お客様の喜ぶ顔を見るのが仕事をする上でなによりのご褒美になっていると答える大槌さん。接客のサービスにもうこれでいいというゴールはありませんが、そんな見えないゴールに一歩でも近付けるようにと、今日も明るい笑顔と元気な声でお客様をお迎えします。
常連のお客様と会話を重ねることで関係も深まる
相手の顔が見えないからこそ電話ではより心を込めて対応
お見送りはお客様の姿が見えなくなるまで手を振り続ける
お客様との信頼関係を築いて気を休めてもらえる宿をご提供。
温泉があり、食事がおいしいというのはどこのホテルでも力を入れている点でしょう。当ホテルではそれらに加え、スタッフである「人」を売りにしています。「社長に会いに来たよ」、「支配人は元気?」と、声を掛けてくれるお客様も多く、私たちも「お帰りなさい」とお迎えできるように、お客様一人ひとりの情報を共有して接客に取り組んでいます。
マネージャー/櫻井健一さん
ホテル函館 ひろめ荘
170年の歴史をもつ老舗温泉。地元で取れる豊富な種類の海の幸と、2種類の源泉かけ流し天然温泉が大人気。特に白濁した硫黄泉は道南地域で唯一の名湯として知られる。
函館市大船町832-2
TEL.0138-25-6111
http://www.hotel-hiromeso.grats.jp