お客様に楽しんでもらうためのお酒と会話でお迎えする【舶来居酒屋 杉の子】
2022年7月25日公開
アルバイトをする学生に対して否定的な見解を持っていた山田さん。生活環境の変化を機に、自分も変化してみようと老舗のバーで、バーテンダーとしてデビュー。これまで接点のなかった世界の見聞を広げていきます。
山田佳央さん(23歳)
広島県出身。水産関連の研究をしている大学院生。どんなことでも前向きに捉えるポジティブな性格。好きなお酒はベネズエラのラム酒「パンペロ・アニバサリオ」。
自らの変化を求めてアルバイトを開始。
大学に通うため、函館の寮で暮らし始めた山田さんは、学校の先輩から自分が働いているバーでアルバイトをしないかと声を掛けられました。「実は当時の私は、アルバイトをする時間があるなら、学生の時にしかできないことに時間を費やすべきだと考えるアンチアルバイト派の人間でした」。
気が進まないまま返事を先延ばしにしていたところ、「お酒を一杯おごるからお店を見てみないか」と誘われ、ひとまず様子を伺ってみることに。二十歳になってからまだ日も浅く、カウンター越しにお店の方とじっくりと話をしながらお酒を飲むのは初めての体験でした。店内の雰囲気も良く、このようなスタイルでいろいろなお客様と接する仕事なら、時給以上に得るものがあるだろうと感じたそうです。「昔から変化を求める性格でした。引っ越して生活環境が大きく変わったので、これを機にアルバイトに対する考えも変えてみようと思い働くことにしました」。
何気ない言動をヒントに、お客様に合わせた対応。
働き始めて程なく、山田さんは自分の第一印象が間違っていなかったことを実感します。「普段は接する機会のない職業や年齢の方とお話ができるのが、この仕事の大きな魅力ですね。世の中にはいろいろなタイプの人がいることを、リアルに感じることができました」。
もともと会話好きだったことが幸いし、知らない人と話すことに対する不安やストレスはほとんどゼロ。むしろ、自分ばかり話しすぎないように心掛け、相づちを打ちながら次の質問を考えるなど、接客に適した会話術を自分なりに模索したと言います。
また、お客様によっては、あいさつだけにとどめることもあるそうです。「常連のお客様に対しては、マスターが声を掛けることが多いですね。当店は半数が観光のお客様で、最初は見分けるのに苦労しました」。見極めるポイントは、目の動きと、注文に費やす時間。店内を見渡すように視線を移動させる方や、メニューを隅々まで見た上でオーダーするなど、こうした何気ない仕草を手がかりにお声掛けをします。見聞を広められるこの職場は、仕事というより社会経験を積みに来ている感覚だと言います。
業務の質を高めてお客様へサービスする。
アルバイトを始めて今年で3年。注文を聞いて、お酒を準備し、グラスを洗うという3つの作業は、現在も担当する基本的な業務。中でもお酒づくりに関しては対応できるレパートリーも増え、最近ではシェーカーを使ってカクテル作りも行います。「お酒はメジャーカップで測ります。この時、表面張力を利用して、カップからあふれる寸前までなみなみ注ぐのが私のこだわりです」と山田さん。
来店されたお客様に楽しい時間を過ごしてもらうためにも、お勧めのお酒を聞かれた時にスマートな対応ができるくらいの知識は欠かせないと言います。「試し飲みをさせてもらっているお陰で、お客様に紹介できる銘柄やカクテルも増えてきました。勧めたお酒がきっかけで会話が広がることもありますので、もっと経験を積みたいですね」。杉の子で得た経験を生かして、さらなる飛躍を志す山田さんでした。
お客様の目線の高さを意識しながら接客
お盆は肩の高さで持つのが基本
後輩にお酒の特徴を説明
お酒を作る時にも会話を中断しない
グラスは常にピカピカに
マスクで声がこもるのでやや大きめの声で話す
手早くかつこぼさないようにグラスに注ぐ
お客様のサインに気付ける広い視野を持つ
店主/青井元子さん
山田さんはどんなタイプのお客様にも物おじせず、立場をわきまえた対応ができる人ですね。ときどきお話に夢中になるところはありますが、「お客様をお待たせしないためにハイボールは5秒で作って」という要望にもしっかりと対応し、後輩たちの良いお手本になっています。2階席もありバーとしては広いお店ですので、オーダーやお会計など、お客様の要望にすぐ気付けるようにとスタッフには伝えています。
舶来居酒屋 杉の子
昭和33年のオープン以来、地元の常連客から観光客まで全国にファンを持つ、函館を代表する老舗バー。映画や小説の中にもたびたび登場する他、近年はアートイベントの会場としても利用されている。創業時から提供しているラムハイ(250円)は同店の看板メニューとして今でも一番人気。
北海道函館市松風町8-5
TEL.0138-23-4577