お客様の声に耳を傾け新たなビジネスにつなげていく【小田島水産食品株式会社】
2022年9月12日公開
サービス業界から 一 転して、70年続く家業の塩辛づくりを手伝うことになった小田島さん。初めてだらけの作業に苦戦しながらも持ち前の行動力を武器に商品開発や販路の拡大などに挑戦していきます。
営業部長/小田島章喜さん(32歳)
スーパーの店員、ホテル、レンタカーショップなど、家業とは畑違いの職場で養った感覚で塩辛づくりに従事する同社の4代目。一押し商品は「塩辛deアヒージョ」。
実家の危機を知って敬遠していた業界に転職。
人と接することが好きで、長年サービス業に従事していた小田島さんは、26歳の時にイカの塩辛を製造販売する家業の小田島水産食品で働くことになりました。「実は正直な話、あまりやりたい仕事だと思っていませんでした。いつかは継ぐことになるだろうと頭の隅では考えていましたが、接客などお客様と関わる仕事のほうが楽しくて好きでした」。
転機になったのは材料となるイカの漁獲量の低迷。記録的な不漁が数年続き、同業の水産加工会社が次々に廃業していく中、最盛期には25人の従業員を抱えていた同社も、半数以下の人員での運営を余儀なくされていました。そんな危機的状況を知り、小田島さんは衝動的に動いていたと言います。「家業の存続に関わる状況でしたので、好きだ嫌いだなどと言っていられません。自分がなんとか盛り返してやろうと意気込んで実家に戻りました」。
塩辛づくりと営業活動の二刀流で経験を重ねる。
実家で働くことになった小田島さんでしたが、塩辛づくりに関してはまったくの初心者。そこで、まずは40年の経験を持つベテランの塩辛職人にイカのさばき方から学ぶことになりました。「樽一つにおよそ200キログラムの塩辛を仕込みます。必要な量のイカをさばくだけで5、6時間と、現在の倍以上は時間がかかっていました。今のように手早くさばけるまでに3年以上要しました」。
イカをさばく作業を含め、塩辛づくりには大きく分けて7つの工程があり、そのすべての業務についても教わる中で、改めて奥の深い仕事であると認識したそうです。
製造に携わる一方、加工場に隣接する事務所の一角に直売所を開設したり、SNSを活用して情報発信を行うなど、営業部長としてこれまでに手が付けられることのなかった業務を展開。更には、飲食店向けに製造販売していた業務用製品を一般のお客様向けにも販売してはどうかと上司に提案し、商品のラインナップを拡充していきました。
「売れるかどうか多少の不安はありましたが、東京で開催された物産展に出店した際、試食した若い世代からの評判も良かったんです。これはいけるぞと自信がつきました」。
念願だったお客様との交流の場をオープン
6年前には1種類だった同社の商品は、小田島さんが入社して以降、イカの塩辛だけで11種類に増加。その他にもアヒージョやピザ、餃子など、塩辛を調味料として利用した商品も誕生しました。これら新商品のヒントは、いつもお客様から届く声の中にあると言います。「アンチョビ代わりに当社の塩辛を入れるとおいしいという感想や、常連のお客様が自身のブログで投稿しているアレンジメニューなど、お客様の声をすくい取ることをいつも心掛けています」。
そんな小田島さんが現在準備を進めているのが、立ち飲みスタイルでお酒と塩辛が楽しめる飲食コーナーの設置。直売所で試食をしたお客様から「ここで塩辛をつまみながら一杯飲みたい。ぜひ日本酒を出して」というリクエストが多く、先日も東京からの常連客が一升瓶を持参していたそう。「すでに保健所の許可も下りたので、準備が整い次第飲食コーナーをスタートさせる予定です。接客好きな私の夢が一つかないました」。イートインでは商品を使った料理の提供も行い、お客様の声を直接聞くことができる情報収集の場としても機能してくれるだろうと期待します。「ここまで来れたのは人との縁のお陰ですね」と、お客様に感謝しながら、小田島さんは次のステップに向けて突き進みます。
仕込みから1週間毎日欠かさずかき混ぜて発酵を促す
不純物が入らないようにカバーを掛ける
加工場に入る時には靴底を消毒
庫内の冷気が逃げないうちに手早く商品を陳列
電話で注文を受け付ける
無理をしないことが、製品の質を保つことにつながります。
工場長/玉木 博さん
営業部長はオールラウンドプレイヤーです。イカの下処理など若い人が敬遠する水仕事も自発的にこなし、若いセンスを生かして販売や情報の発信など営業も行う。製造の現場を知っているからこそいろいろと動くことができるのでしょう。一方、製造業務は体力仕事の一面もあります。無理をし過ぎると製品に影響が出るので、自分の体力に合った作業をすることが重要です。
小田島水産食品株式会社
大正3年に食料品店からスタートした水産加工会社。全国でも珍しい昔ながらの木樽仕込みの塩辛づくりにこだわり、発酵食品ならではの深みのある味とコクを求め全国からお客様が訪れる。
北海道函館市弁天町20-7
TEL.0138-22-4312
http://odajimasuisan.com/